昨日は、プラネタリーヘルスアカデミー第2回の講義でした。
今回のテーマは、「気候変動と健康」。
気候変動というと、気温上昇や海面上昇、異常気象など「環境の問題」というイメージが強いかもしれません。
でも今回の講義を聞いて改めて感じたのは、
気候変動は、すでに私たちの「健康の問題」でもある
ということでした。
気温が上昇すれば、熱中症や暑熱による死亡が増えます。それだけではありません。
感染症、大気汚染、アレルギー、食料不足や低栄養、災害、そしてメンタルヘルスまで、気候変動はさまざまな経路を通して人の健康に影響します。
そして、その影響をより強く受けるのは、高齢者や子ども、持病のある方、経済的・社会的に弱い立場にある人たちです。
環境の問題と健康格差は、実は切り離せないのです。
医療が健康を守りながら、CO₂も排出している
今回、医師として特に衝撃を受けたことがあります。
それは、人の健康を守るはずの医療そのものが、気候変動の一因にもなっているということです。
講義では、日本の医療分野からのCO₂排出は全体の約6.4%を占め、2045年までに実質ゼロを目指すという話がありました。
さらに驚いたのが、医療に関連するCO₂排出の中で、入院医療が約4分の1を占めるということ。
医療が発達し、新しい薬や医療機器、ディスポーザブル製品が増えたことで、私たちはより安全で質の高い医療を受けられるようになりました。
それは、とても大切な進歩です。
でもその一方で、医療のために使うエネルギーや製品がCO₂を排出し、気候変動を進め、その気候変動が再び人の健康を脅かす。
この循環を知り、私は医療従事者として少しショックを受けました。
「治療する」前に健康を守る
そこで、改めて重要だと感じたのが予防医療と健康増進です。
病気になってから治療することはもちろん必要です。
でも、病気になる人を少しでも減らし、健康でいられる期間を長くすることができれば、本人の幸せにつながるだけでなく、入院や治療に必要な医療資源を減らし、結果として環境への負荷を減らすことにもつながります。
人の健康に良いことが、地球の健康にも良い。
こうした双方に利益をもたらす考え方を「co-benefit(コベネフィット)」と呼ぶそうです。
一方で、私は一つ疑問も感じました。
予防医療や健康増進には、当然お金もかかります。
それを誰が負担するのか。経済的に余裕のある人だけが予防医療を受けられるようになれば、かえって健康格差を広げてしまう可能性もあります。
地球に良いことを、誰もが健康になれる仕組みにつなげるにはどうしたらいいのか。
これはこれから考えていきたいテーマです。
Planetary Healthを学び始めて、私の中で「健康」という言葉の意味が少しずつ広がっています。
一人の身体だけを見るのではなく、その人が暮らす社会、環境、そして地球まで考える。
人の健康と地球の健康は、やはりつながっている。
これからも学んだことを、皆さんと少しずつ共有していきたいと思います。
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休診:火曜日、日曜日(月曜祝日は休診、火曜日通常診療)
先日、馬渕俊介さんの『道をつくる―レールなき時代に自分の人生をどう切り拓くか』を読み終えました。
馬渕さんは、JICA、マッキンゼー、世界銀行などを経て、世界の感染症対策や国際保健の最前線で仕事をされてきた方です。
華やかな経歴だけを見ると、最初から明確な目標があって、一直線にそこへ進んできた人のように思えます。
でも、この本を読んで感じたのは、むしろその逆でした。
人生には迷う時期もある。
思うようにいかないこともある。
自分が進んでいる方向が正しいのか分からなくなることもある。
それでも、その時々で自分が大切だと思うことを選び、行動し、また考える。
そうやって振り返ったときに、初めて一本の「道」ができている。
私はそこに、とても共感しました。
夢は、最初から見つかっていなくてもいい
若い頃は、
「将来何になりたいの?」
「夢は何?」
とよく聞かれます。
でも、人生の目標が最初からはっきり決まっている人ばかりではありません。
私自身も、医師になったときから現在の自分を想像していたわけではありません。
皮膚科医になり、美容医療に出会い、漢方を学び、自分のクリニックを開業しました。
そして今は、美容や健康だけではなく、ウェルネス、リカバリー、Planetary Healthなどにも興味が広がっています。
一つの興味から次の興味へ。
その時々で「これは大切だ」と感じたものを追いかけてきたら、少しずつ自分の道になっていました。
何歳からでも、道はつくれる
私は今、53歳です。
医師になって25年以上、クリニックを開業して10年。
以前なら、この年齢になれば自分の道はある程度決まっているものだと思っていたかもしれません。
でも最近は、むしろ逆に感じます。
まだ知らないことがたくさんある。
まだ勉強したいこともある。
まだやってみたいこともある。
年齢を重ねるということは、可能性が減っていくことではなく、これまで歩いてきた道を土台にして、次の道をつくっていくことなのかもしれません。
Attractive Agingにも通じるもの
これは、私が大切にしている Attractive Aging にもつながります。
若い頃の自分に戻ろうとするのではなく、これまでの経験を重ねながら、今の自分だからできることを見つけていく。
シワや白髪だけではなく、経験も、失敗も、出会った人も、学んできたことも、すべて今の自分をつくっています。
だから人生は、「決められたレールを正しく進むこと」ではないのだと思います。
迷ったり、立ち止まったり、時には方向を変えたりしながら、
自分で自分の道をつくっていく。
『道をつくる』を読み終えて、私もこれから先の人生で、まだ新しい道をつくっていきたいと思いました。
そして10年後に振り返ったとき、
「あの時の小さな一歩が、ここにつながっていたんだ」
と思える人生でありたいと思います。
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プラセンタ注射を受けるとき、
「一度でもプラセンタ注射をすると、もう献血できないんですよね?」
と患者さんから聞かれることがあります。
これまでは、その通りでした。
ところが2026年10月1日から、この献血基準が大きく変わりました。
これまでプラセンタ注射を一度でも使用したことがある方は、期間を定めず献血を控えることになっていましたが、今後は、
最終使用日から3か月が経過すれば、献血が可能
となりました。
今日は、なぜこれまで献血ができなかったのか、そしてなぜ今回ルールが変わったのかを少しお話ししたいと思います。
なぜプラセンタ注射をすると献血できなかったの?
日本で医療用として使用されているプラセンタ注射には、ヒトの胎盤を原料とした「メルスモン」と「ラエンネック」があります。
メルスモンは更年期障害や乳汁分泌不全、ラエンネックは慢性肝疾患における肝機能の改善について、それぞれ保険適応を持つ医薬品です。
これまで献血が制限されていた背景には、変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)があります。
vCJDは、異常なプリオン蛋白が関係する非常にまれな疾患です。
2000年代、輸血による感染の可能性などが問題となったことから、日本でも予防的な安全対策が取られました。
その一つとして2006年から、ヒト胎盤由来のプラセンタ注射を一度でも受けた方は、期間を定めず献血を控えることになっていました。
ここで知っていただきたいのは、
プラセンタ注射によってvCJDに感染した症例が確認されたから禁止されていたわけではない
ということです。
実際、これまでプラセンタ注射剤の使用によるvCJDの感染事例は報告されていません。
理論上のリスクを可能な限り避けるために、非常に慎重な予防措置が取られていたのです。
約20年ぶりにルールが変わりました
その後、国内外のvCJDの発生状況や感染リスクについてデータが蓄積されてきました。
厚生労働省では、国内の感染リスク評価、海外での献血制限の状況などを総合的に検討し、これまでの制限を見直すことになりました。
そして2026年10月1日から、
プラセンタ注射の最終使用日から3か月間は献血を控え、3か月経過後は献血可能
という新しい基準になりました。
長くプラセンタ注射を受けている方にとっては、大きな変更だと思います。
「基準が変わった=安全性の考え方が変わった」?
今回の変更について、私はここを丁寧に理解することが大切だと思っています。
「以前は危険だったけれど、急に安全になった」ということではありません。
医学では、新しいデータが蓄積されることで、リスクと利益を改めて評価し、それに合わせて基準が見直されることがあります。
今回も、長年にわたる国内外のデータや感染リスクの評価をもとに、従来の制限を続ける必要性が再検討された結果です。
一方で、プラセンタ注射剤は現在も「特定生物由来製品」です。
そのため、最終注射から3か月間は献血できないというルールは残っています。
また、実際に献血できるかどうかは、ほかの献血基準や健康状態も含め、当日の問診・健診によって最終的に判断されます。
正しい情報を知って、治療を選択する
プラセンタ注射について、
「一度受けたら一生献血できないから」
という理由で治療を迷っていた方もいらっしゃると思います。
そのルールが今回、約20年ぶりに大きく変わりました。
医療の情報や基準は、新しい科学的知見によって少しずつ変わっていきます。
だからこそ私たち医療者も、以前の知識のままではなく、常に情報をアップデートして患者さんに正確にお伝えすることが大切だと思っています。
プラセンタ注射を受けている方、これから検討されている方には、ぜひ今回の変更を知っていただければと思います。
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美容医療でとても身近になったボトックス。
眉間や額、目尻などの表情ジワを改善する治療としてご存じの方も多いと思います。
最近、このボトックスについて興味深い研究が増えています。
それは、
「表情を変えることが、脳の感情の働きにも影響する可能性がある」
というものです。
表情は「心の結果」だけではない?
私たちは普通、
「楽しいから笑う」
「悲しいから悲しい顔になる」
「怒っているから眉間にシワが寄る」
と考えます。
つまり、
脳・感情 → 表情
という一方向の流れです。
ところが心理学や神経科学には以前から「facial feedback(表情フィードバック)」という考え方があります。
顔の筋肉や皮膚から脳へ戻る情報も、私たちの感情の感じ方に関わっているのではないか、というものです。
つまり、
脳・感情 → 表情
だけではなく、
表情 → 脳・感情
という逆方向のルートもあるのではないかということです。
眉間のボトックスで、脳の反応が変わった
この仮説を調べるために使われたのが、ボツリヌストキシンでした。
2009年に発表されたfMRI(機能的MRI)を用いた研究では、眉間の筋肉にボツリヌストキシンを注射して動きを抑えたところ、怒りの表情を作った際の扁桃体の活動が弱くなることが示されました。
扁桃体は、恐怖や不安などを含め、感情に関わる情報を処理する脳領域の一つです。
さらに、その後の研究では、ボトックスが効いている間には怒った顔を見たときの扁桃体の反応が弱まり、ボトックスの効果がなくなると脳の反応も元に戻ることが報告されています。
とても興味深いと思いませんか?
単に「シワが寄らなくなったから気分が良くなった」というだけでは説明できない可能性があるのです。
うつ病についての研究も
さらに興味深いことに、眉間へのボツリヌストキシン注射とうつ症状についても研究されています。
2012年の小規模なランダム化比較試験では、うつ病患者30人をボツリヌストキシン群とプラセボ群に分けたところ、眉間にボツリヌストキシンを注射した群で、6週間後のうつ症状がより大きく改善しました。
その後も複数の臨床試験が行われ、最近のメタ解析でも、顔面へのボツリヌストキシン注射による抑うつ症状改善の可能性が報告されています。
ただし、ここは慎重に考える必要があります。
現時点で、美容目的のボトックスを「うつ病の治療」と考えるべきではありません。
研究規模や研究方法には限界もあり、なぜ改善するのかというメカニズムも完全に解明されたわけではありません。
「ボトックスが脳まで移動する」という意味ではありません
もう一つ大切なのが、この話を、
「顔に打ったボトックスが脳まで移動して、脳に作用する」
と単純に理解しないことです。
動物実験ではボツリヌストキシンの神経を介した輸送について研究されていますが、人で通常の美容医療を受けた場合に、脳へ移動した毒素が直接感情を変えている、と証明されているわけではありません。
むしろ現在考えられている重要な仕組みの一つが、顔から脳へ戻る感覚情報が変わることによる「facial feedback」です。
美容医療は「見た目」だけではないのかもしれない
私はこの研究を知って、とても興味深く感じました。
美容医療というと、
シワを減らす。
シミを取る。
たるみを改善する。
という「見た目の治療」と考えられがちです。
でも、人間の身体はそんなに単純に分かれているわけではありません。
皮膚があり、筋肉があり、神経があり、脳があり、そして感情があります。
それらは常に情報をやり取りしています。
表情は心を映すだけではなく、心をつくる入力の一つでもある。
そう考えると、美容医療を見る視点も少し変わってきます。
もちろん、ボトックスを打てば幸せになる、という単純な話ではありません。
そして表情をなくしてしまえばよいわけでもありません。
むしろ私は、年齢とともに刻まれる表情もその人の魅力の一部だと思っています。
大切なのは、若い顔に戻ることではなく、自分らしい表情を残しながら、心地よく年齢を重ねていくこと。
皮膚や表情は、私たちの内側と外の世界をつなぐインターフェースなのかもしれません。
これもまた、私が考えている Attractive Aging の一つです。
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昨日、月に一度受けているコーチングで、面白いワークをしました。
「6つの帽子(Six Thinking Hats)」という思考法です。
一つの問題について考えていると、私たちはつい「私はこう思う」という一方向から物事を見てしまいます。
そこで、あえて6種類の違う「帽子」をかぶったつもりになって、同じ問題をまったく違う視点から考えてみる、という方法です。
6つの帽子には、それぞれ役割があります。
- 白い帽子=事実・情報。「実際に何が起きている?」
- 赤い帽子=感情・直感。「私はどう感じている?」
- 黒い帽子=リスク・注意。「何が問題になりそう?」
- 黄色い帽子=メリット・可能性。「良いところは?」
- 緑の帽子=アイデア・創造。「他の方法はない?」
- 青い帽子=整理・俯瞰。「では、どう進めよう?」
実際にクリニックで起こる身近な問題をテーマにやってみたのですが、これがなかなか面白いのです。
私は院長という立場上、何か問題が起こると、どうしても「どう解決するか」「同じことが起きないためにはどうするか」をすぐに考えてしまいます。
つまり、最初から青や黒の帽子をかぶってしまいがちなのかもしれません。
でも、
「事実だけを取り出したらどう見える?」
「相手はどう感じている?」
「逆に、この状況の良い面は?」
「今まで考えたことのない方法は?」
と順番に考えてみると、最初に自分が思っていた「正解」とは違う答えが見えてくることがあります。
特に印象に残ったのは、感情と事実をいったん分けて考えることでした。
人と人が関わる以上、仕事でも家庭でも感情はあります。
「どうしてやってくれないの?」
「前にも言ったのに」
と思うこともあります。
でも、そこで一度白い帽子をかぶって、
「感情を除いて、起きた事実だけを見ると何だろう?」
と考える。
それだけで、問題の見え方が少し変わります。
これはクリニックの経営だけではなく、診療にも通じるように思いました。
患者さんのお悩みに対しても、検査結果や肌の状態という「事実」だけを見るのではなく、ご本人の気持ちを知ることも大切。
一方で、気持ちだけではなく治療のリスクも考える。
そして、「治療する・しない」の二択ではなく、別の方法がないかを考えてみる。
一つの方向からだけ見ないこと。
医療でも、仕事でも、子育てでも、人との関係でも、とても大切なことなのかもしれません。
私自身、つい自分の考え方の癖に戻ってしまいますが(笑)、
「今、私は何色の帽子をかぶっているのかな?」
と時々考えてみようと思います。
違う色の帽子をかぶってみると、今まで見えなかったものが見えてくるかもしれません。
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