美容医療でとても身近になったボトックス。
眉間や額、目尻などの表情ジワを改善する治療としてご存じの方も多いと思います。
最近、このボトックスについて興味深い研究が増えています。
それは、
「表情を変えることが、脳の感情の働きにも影響する可能性がある」
というものです。
表情は「心の結果」だけではない?
私たちは普通、
「楽しいから笑う」
「悲しいから悲しい顔になる」
「怒っているから眉間にシワが寄る」
と考えます。
つまり、
脳・感情 → 表情
という一方向の流れです。
ところが心理学や神経科学には以前から「facial feedback(表情フィードバック)」という考え方があります。
顔の筋肉や皮膚から脳へ戻る情報も、私たちの感情の感じ方に関わっているのではないか、というものです。
つまり、
脳・感情 → 表情
だけではなく、
表情 → 脳・感情
という逆方向のルートもあるのではないかということです。
眉間のボトックスで、脳の反応が変わった
この仮説を調べるために使われたのが、ボツリヌストキシンでした。
2009年に発表されたfMRI(機能的MRI)を用いた研究では、眉間の筋肉にボツリヌストキシンを注射して動きを抑えたところ、怒りの表情を作った際の扁桃体の活動が弱くなることが示されました。
扁桃体は、恐怖や不安などを含め、感情に関わる情報を処理する脳領域の一つです。
さらに、その後の研究では、ボトックスが効いている間には怒った顔を見たときの扁桃体の反応が弱まり、ボトックスの効果がなくなると脳の反応も元に戻ることが報告されています。
とても興味深いと思いませんか?
単に「シワが寄らなくなったから気分が良くなった」というだけでは説明できない可能性があるのです。
うつ病についての研究も
さらに興味深いことに、眉間へのボツリヌストキシン注射とうつ症状についても研究されています。
2012年の小規模なランダム化比較試験では、うつ病患者30人をボツリヌストキシン群とプラセボ群に分けたところ、眉間にボツリヌストキシンを注射した群で、6週間後のうつ症状がより大きく改善しました。
その後も複数の臨床試験が行われ、最近のメタ解析でも、顔面へのボツリヌストキシン注射による抑うつ症状改善の可能性が報告されています。
ただし、ここは慎重に考える必要があります。
現時点で、美容目的のボトックスを「うつ病の治療」と考えるべきではありません。
研究規模や研究方法には限界もあり、なぜ改善するのかというメカニズムも完全に解明されたわけではありません。
「ボトックスが脳まで移動する」という意味ではありません
もう一つ大切なのが、この話を、
「顔に打ったボトックスが脳まで移動して、脳に作用する」
と単純に理解しないことです。
動物実験ではボツリヌストキシンの神経を介した輸送について研究されていますが、人で通常の美容医療を受けた場合に、脳へ移動した毒素が直接感情を変えている、と証明されているわけではありません。
むしろ現在考えられている重要な仕組みの一つが、顔から脳へ戻る感覚情報が変わることによる「facial feedback」です。
美容医療は「見た目」だけではないのかもしれない
私はこの研究を知って、とても興味深く感じました。
美容医療というと、
シワを減らす。
シミを取る。
たるみを改善する。
という「見た目の治療」と考えられがちです。
でも、人間の身体はそんなに単純に分かれているわけではありません。
皮膚があり、筋肉があり、神経があり、脳があり、そして感情があります。
それらは常に情報をやり取りしています。
表情は心を映すだけではなく、心をつくる入力の一つでもある。
そう考えると、美容医療を見る視点も少し変わってきます。
もちろん、ボトックスを打てば幸せになる、という単純な話ではありません。
そして表情をなくしてしまえばよいわけでもありません。
むしろ私は、年齢とともに刻まれる表情もその人の魅力の一部だと思っています。
大切なのは、若い顔に戻ることではなく、自分らしい表情を残しながら、心地よく年齢を重ねていくこと。
皮膚や表情は、私たちの内側と外の世界をつなぐインターフェースなのかもしれません。
これもまた、私が考えている Attractive Aging の一つです。
emiスキンクリニック松濤
渋谷駅から徒歩5分
元東急本店のオーチャードホール入り口向かい
〒150-0046
東京都渋谷区松濤1-7-10-101
TEL:03-3468-3711
インスタ: https://www.instagram.com/emiskinclinic/?hl=ja
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クリニック公式オンラインショップ:http://members.shop-pro.jp
診療時間:9:30~17:00(土曜日は9:30~13:30)
休診:火曜日、日曜日(月曜祝日は休診、火曜日通常診療)
昨日、月に一度受けているコーチングで、面白いワークをしました。
「6つの帽子(Six Thinking Hats)」という思考法です。
一つの問題について考えていると、私たちはつい「私はこう思う」という一方向から物事を見てしまいます。
そこで、あえて6種類の違う「帽子」をかぶったつもりになって、同じ問題をまったく違う視点から考えてみる、という方法です。
6つの帽子には、それぞれ役割があります。
- 白い帽子=事実・情報。「実際に何が起きている?」
- 赤い帽子=感情・直感。「私はどう感じている?」
- 黒い帽子=リスク・注意。「何が問題になりそう?」
- 黄色い帽子=メリット・可能性。「良いところは?」
- 緑の帽子=アイデア・創造。「他の方法はない?」
- 青い帽子=整理・俯瞰。「では、どう進めよう?」
実際にクリニックで起こる身近な問題をテーマにやってみたのですが、これがなかなか面白いのです。
私は院長という立場上、何か問題が起こると、どうしても「どう解決するか」「同じことが起きないためにはどうするか」をすぐに考えてしまいます。
つまり、最初から青や黒の帽子をかぶってしまいがちなのかもしれません。
でも、
「事実だけを取り出したらどう見える?」
「相手はどう感じている?」
「逆に、この状況の良い面は?」
「今まで考えたことのない方法は?」
と順番に考えてみると、最初に自分が思っていた「正解」とは違う答えが見えてくることがあります。
特に印象に残ったのは、感情と事実をいったん分けて考えることでした。
人と人が関わる以上、仕事でも家庭でも感情はあります。
「どうしてやってくれないの?」
「前にも言ったのに」
と思うこともあります。
でも、そこで一度白い帽子をかぶって、
「感情を除いて、起きた事実だけを見ると何だろう?」
と考える。
それだけで、問題の見え方が少し変わります。
これはクリニックの経営だけではなく、診療にも通じるように思いました。
患者さんのお悩みに対しても、検査結果や肌の状態という「事実」だけを見るのではなく、ご本人の気持ちを知ることも大切。
一方で、気持ちだけではなく治療のリスクも考える。
そして、「治療する・しない」の二択ではなく、別の方法がないかを考えてみる。
一つの方向からだけ見ないこと。
医療でも、仕事でも、子育てでも、人との関係でも、とても大切なことなのかもしれません。
私自身、つい自分の考え方の癖に戻ってしまいますが(笑)、
「今、私は何色の帽子をかぶっているのかな?」
と時々考えてみようと思います。
違う色の帽子をかぶってみると、今まで見えなかったものが見えてくるかもしれません。
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「肌老化の約80%は紫外線が原因」
こんな言葉を聞いたことはありませんか?
美容皮膚科の診療をしている私自身も、紫外線が肌に与える影響の大きさを日々感じています。
でも、「本当に肌老化の80%が紫外線なの?」と聞かれると、この数字には少し説明が必要です。
そして最近では、光老化を考えるうえで、紫外線だけでなく、可視光線や赤外線まで含めた“太陽光全体”の影響が注目されています。
「80%」はどこから来たの?
よく引用される研究の一つに、30〜78歳の女性298人を対象に、日光を浴びる習慣と顔の老化徴候との関係を調べたものがあります。
その研究から、太陽光への曝露が「目に見える顔の老化徴候」の約80%に関与すると推定されました。
ただし、これは「すべての肌老化の80%が紫外線だけで決まる」という意味ではありません。
肌の老化には、年齢とともに自然に起こる自然老化と、長年にわたって光を浴びることで進む光老化があります。
シミ、シワ、肌の質感、たるみなどは、自然老化と光老化が複雑に重なり合って現れてくるのです。
光老化は「紫外線だけ」ではありません
太陽光にはさまざまな波長の光が含まれています。
その中で、肌への影響が最もよく分かっているのが紫外線です。
UVBは主に表皮に作用し、日焼けやDNA損傷などに関与します。一方、UVAはより深く真皮まで届き、酸化ストレスなどを介してコラーゲンや弾性線維にも影響します。
でも、私たちが毎日浴びているのは紫外線だけではありません。
最近では可視光線も、特に色素沈着との関係が注目されています。シミや肝斑など色素トラブルのある方では、紫外線だけでなく可視光線まで意識した光対策が重要になってきています。
さらに赤外線、特に近赤外線についても、熱や酸化ストレスなどを介して皮膚に影響する可能性が研究されています。
ただし、紫外線と比べると、可視光線や赤外線の光老化への影響については、まだ研究途中の部分もあります。
だからこそ、「紫外線だけを防げば完璧」というより、太陽光全体から肌を守るという視点を持つことが大切だと思います。
日焼け止めだけで十分?
一般的な日焼け止めに表示されているSPFやPAは、主に紫外線に対する防御の指標です。
一方、可視光線による色素沈着が気になる場合には、酸化鉄などの顔料を含む色付きの日焼け止め(tinted sunscreen)が役立つことが分かってきています。
特に肝斑や炎症後色素沈着などでは、こうした「紫外線+可視光線」という視点も大切です。
赤外線については、現時点では紫外線のSPFやPAのような確立された防御指標はありません。
日焼け止めだけに頼るのではなく、帽子や日傘、日陰を利用するなど、物理的に強い太陽光を避けることも大切です。
10年後の肌を、今日から守る
年齢を重ねることそのものを止めることはできません。
そして私は、年齢を重ねることを否定する必要もないと思っています。
でも、毎日少しずつ蓄積する光の影響には、自分で予防できる部分があります。
美容医療で肌を治療することも大切ですが、それと同じくらい、毎日の生活の中で肌を「守る」ことも大切です。
10年後の肌は、今日からつくられていく。
若さを追い続けるためではなく、これから年齢を重ねていく自分の肌を健やかに保つために。
守る・整える・育てる。
これも、私の考える Attractive Aging の大切な一つです。
昨日から、プラネタリーヘルスアカデミーでの学びが始まりました。
「Planetary Health(プラネタリーヘルス)」という言葉を聞いたことがありますか?
私自身、医師としてこれまで「人の健康」について長く考えてきました。でも最近、気候変動や世界各地で起こる災害を目にするたびに、人間だけを見ていて、本当に健康を守ることができるのだろうかと思うようになりました。
Planetary Healthとは、とても大きく言えば、「人間の健康は、地球や自然、生態系の健康と切り離して考えることはできない」という考え方です。
昨日の第1回の講義で特に印象に残ったのは、地球は私たちが思っているほど大きくなく、そして無限ではない、ということでした。
「Planetary Boundaries(プラネタリー・バウンダリー)」という考え方では、気候変動だけではなく、生物多様性、土地利用、水、窒素やリンなど、地球環境の変化をいくつかの領域に分けて、“人類が安全に活動できる範囲”を考えます。
こうした問題が数値や図として可視化されると、「環境問題」というどこか遠い話ではなく、私たち自身の健康や、次の世代の暮らしにつながる問題なのだと改めて感じました。
ただ、難しいのは、一つの問題だけを解決すればよいわけではないこと。
ある環境問題を改善しようとした取り組みが、別の問題には負担になることもあります。国によって置かれている状況も違います。
だからこそ必要なのは、「これだけが正解」と考えることではなく、地球・生態系・社会・人間を一つのつながりとして考えることなのだと思います。
私もまだ学び始めたばかりです。
これからアカデミーで学んだことを、このブログでも少しずつ、できるだけ分かりやすくご紹介していきたいと思います。
美容や健康とは一見遠い話に思えるかもしれません。
でも、きれいな空気や水、安心して食べられるもの、暑さから身を守れる環境、災害が起きても医療を受けられる社会――その土台があってこそ、私たちは健康に、そして美しく年齢を重ねることができます。
自分の健康を考えることから、私たちが暮らす地球の健康を考えることへ。
私自身も皆さんと一緒に、少しずつ学んでいきたいと思います。
emiスキンクリニック松濤
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シルバーウィークに、今話題のNetflixシリーズ「ダウンタイム」を一気に観ました。
美容整形業界を舞台にした全8話のドラマで、松岡茉優さん演じる「医療で命を救う」ことを信条とする医師と、仲里依紗さん演じる「美で人を救う」ことを信じるカリスマ美容外科医。二人のまったく異なる価値観を軸に、美容医療の光と闇が描かれています。
私自身、長く美容医療に携わっているので、とても興味深く観ました。
もちろんドラマなので、かなり刺激的に描かれている部分もあります。
でも、観ながら何度も考えさせられたのが、
「美しくなりたいという気持ちは、どこまで人を幸せにするのだろう?」
ということでした。
「美しくなりたい」は悪いこと?
私は、美しくなりたいと思うこと自体は決して悪いことではないと思っています。
シミが薄くなって鏡を見るのが楽しくなったり、長年気になっていたコンプレックスが改善して自信が持てたり。
美容医療によって、その方の気持ちが前向きになる場面を、私自身たくさん見てきました。
一方で、
「もっと若く」
「もっときれいに」
「ここを直したら、次はここ」
と、美しさを追い求めることに終わりがなくなってしまうこともあります。
今はSNSを開けば、加工された美しい顔や身体を毎日のように目にします。
「自分はまだ足りない」と感じやすい時代なのかもしれません。
美容医療だからこそ「しない」という選択もある
ドラマの中では、整形依存、キッズ整形、医療安全や美容医療に携わる医師のあり方など、現在の美容医療が抱えるさまざまな問題も描かれています。
私が改めて感じたのは、美容医療は患者さんの希望をすべて叶えることが正解ではないということです。
医学的に必要なのか。
その治療によって本当にその方が幸せになれるのか。
リスクに見合う治療なのか。
時には、「今はしない方がいいと思います」とお伝えすることも、医師の役割だと思っています。
「ダウンタイム」というタイトルも興味深い
美容医療でいうダウンタイムとは、施術後の腫れや内出血などが落ち着くまでの回復期間のことです。
このドラマでは、それを単なる治療後の期間ではなく、「サナギが蝶になるまでの大事な時間」というモチーフとして使っています。
とても印象に残りました。
人は誰でも変わりたいと思うことがあります。
でも、本当に大切なのは「別の誰かになること」ではなく、自分自身を嫌いにならずに、今の自分を少し好きになれることなのではないでしょうか。
私が考える美容医療
私は「若返る」という言葉より、Attractive Aging ― 魅力的に年齢を重ねることを大切にしています。
シワが一本もないことが美しいわけでも、20代の顔に戻ることが正解でもありません。
年齢とともに変化する自分を受け入れながら、必要なところには少し医療の力を借りる。
そして、治療を受けたことで鏡を見るのが少し楽しくなったり、自信を持って人に会えたりする。
美容医療は、「自分ではない誰かになるため」ではなく、「自分らしく生きるため」にあってほしい。
「ダウンタイム」を観ながら、そんなことを改めて考えたシルバーウィークでした。
美容医療に興味のある方はもちろん、「美しくなるって何だろう?」と一度でも考えたことのある方には、とても興味深い作品だと思います。
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