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アトピー性皮膚炎
Atopic dermatitis : AD

アトピー性皮膚炎とは

アトピー性皮膚炎では角層表皮のバリア障害があり、様々な因子による非特異的刺激反応やアレルギー性炎症反応を皮膚に生じます。慢性で繰り返します。
小児アトピー性皮膚炎ではこれら各因子のうち、食物、細菌、発汗、環境アレルゲンなどの割合が高いです。また喘息やアレルギー性鼻炎・結膜炎などの合併、家族歴を認めやすいです。

頻度

小児では15〜20%に見られます。
成人では2〜10%に見られます。

病因

角層バリア機能に重要なフィラグリンの遺伝子変異がAD患者において発見されています。
バリア機能障害により外界からの各種の抗原や刺激の皮膚侵入が容易となり、アレルギー性炎症反応を起こしやすくなります。
汗、汚れ、乾燥、衣類などの外的刺激による角層バリアの破壊も重要な要因になります。
バリア障害とアレルギー炎症との相互作用によりADの病態が形成されると考えられます。

症状

皮膚症状は年齢とともに変化します。

  • 乳幼児期:生後2か月から2〜4歳の期間。主として顔面、特に頰部に湿潤性の湿疹反応が始まり、頸部・胸部に拡大します。頭部では厚いかさぶたを付着します。冬には患児の体幹全面、四肢伸側の皮膚は乾燥し、毛孔子一致性の常色丘疹が集簇して鳥肌様相を呈します(アトピー皮膚)。しばしば同時に淡紅色丘疹が集簇した瘙痒性局面も混在し、粃糠様落屑を示し、幼少時期の症状に移行します。また自然治癒も見られます。
  • 小児期:3〜4歳から10〜12歳頃の期間。乳児期から引き続き起こる場合と、乳幼児期症状が一旦治癒し、期間をおいて発症する場合、この時期になって初めて発症する場合があります。体幹皮膚は乾燥傾向を示し、肘の内側や膝の内側、お尻などに慢性の経過で皮膚が肥厚し、硬くなった状態になります。この周囲は紅色丘疹が散在し、著名な掻破痕を認め、体幹では紅色小丘疹が集簇した湿疹局面が見られやすいです。蒼白顔面、皮膚乾燥、鵞皮様毛孔角化、魚鱗癬様変化が著名になります。10歳頃を転機として自然治癒することもあります。
  • 思春期・成人期:12歳以降。小児期に治癒しなかった少数者が、そのまま移行します。またこの時期になって初めて発症し、そのまま成人期へ移行することもあります。慢性の経過の皮膚の肥厚と硬さがより著名になり拡大します。前頸部、側頸部、前胸部、手首、肘の内側、膝の内側に分布します。体幹四肢の皮膚はキメが荒く乾燥し、多数の紅色丘疹が混ざったアトピー皮膚となります。頸部のさざ波状の炎症後色素沈着はdirty neckと呼ばれ、体幹には浮腫性紅斑や、激しい掻破により痒疹結節も生じます。

検査

2歳頃までは食物アレルギーを合併することもあるため血清IgE RAST値などを測定します。
成人では食物、ハウスダスト、ダニ、花粉、ペットなどに対する血清IgE RAST値などを測定することもあります。 ただし全例に行うわけではなく、検査データには限界があるので、患者様のご要望も考慮し実施します。

治療

治療の目標は,症状がないか,あっても軽微で,日常生活に支障がなく,薬物療法もあまり必要としない状態に到達し,その状態を維持することである.また, このレベルに到達しない場合でも,症状が軽微ないし 軽度で,日常生活に支障をきたすような急な悪化がおこらない状態を維持することを目標とします。
薬物療法の基本として皮膚の炎症にはステロイド軟膏やタクロリムス軟膏、バリア障害には保湿剤を主とするスキンケア、痒みに対しては抗アレルギー薬の内服を行います。

(1)外用薬

  • 保湿剤:乾燥した皮膚への保湿外用薬(保湿剤・保護剤)の使用は,低下した角層水分量を改善し,皮膚バリア機能を回復させ,皮膚炎の再燃予防と痒みの抑制につながります。
  • ステロイド外用薬:個々の皮疹の重症度に見合ったランクの薬剤を適切に選択し,必要な量を必要な期間,使用することが重要です。急性増悪した皮疹には1日2回外用させて早く軽快させ,軽快したら寛解を目指して1日1回外用させます。炎症症状の鎮静後にステロイド外用薬を中止する際には,急激に中止することなく,寛解を維持しながら漸減あるいは間欠投与(プロアクティブ療法(後述)を含む)を行い徐々に中止します。ステロイド外用薬に対する誤解(ステロイド内服薬の副作用との混同,およびアトピー性皮膚炎そのものの悪化とステロイド外用薬の副作用との混同が多い)から,ステロイド外用薬への必要以上の恐怖感,忌避が生じ,アドヒアランスの低下によって期待した治療効果が得られない例がしばしばみられます。また不適切な使用により,効果を実感できないことでステロイド外用薬に対する不信感を抱く事もあります。その誤解を解くためには十分な診察時間をかけて説明し指導していきます。
    妊娠・授乳婦への配慮として、通常のステロイド外用療法では,全身循環への吸収は少なく,先天異常,胎児発育への影響は,ともに問題となりません。
  • タクロリムス:副腎皮質ステロイドとはまったく異なった作用機序で炎症を抑制します。タクロリムス軟膏は副作用の懸念などからステロイド外用薬では治療が困難であったアトピー性皮膚炎の皮疹に対しても高い有効性を期待できます。2 歳未満の小児には安全性が確立していないため使用できません。また妊婦や授乳中の婦人にも使用しません。
    しばしば塗布部位に一過性の灼熱感,ほてり感などの刺激症状が現れることがありますが,これらの症状は使用開始時に現れ,皮疹の改善に伴い消失することが多いです。
    これまでのところ,タクロリムス軟膏の使用が皮膚癌やリンパ腫の発症リスクを高めないというエビデンスが集積されてきています。
  • ロアクティブ療法:プロアクティブ(proactive)療法は,再燃をよく繰り返す皮疹に対して,急性期の治療によって寛解導入した後に,保湿外用薬によるスキンケアに加え,ステ ロイド外用薬やタクロリムス外用薬を定期的に(週 2 回など)塗布し,寛解状態を維持する治療法です。アトピー性皮膚炎では炎症が軽快して一見正常に見える皮膚も,組織学的には炎症細胞が残存しており, 再び炎症を引き起こしやすい状態にあります。この潜在的な炎症が残っている期間は,ステロイド外用薬やタクロリムス外用薬などの抗炎症外用薬を継続するかプロアクティブ療法を行うことによって,炎症の再燃を予防することが可能になることが多いです。プロアクティブ療法を行っている間も保湿外用薬などによる毎日のスキンケアは継続することをお勧めします。

(2)内服抗ヒスタミン薬

瘙痒はアトピー性皮膚炎患者のQOLを低下させる自覚症状の1つであり,疾患の定義にも含まれています。痒みによる搔破は,皮膚炎の悪化や感染症,眼合併症 の誘因ともなるため,そのコントロールは重要です。

ステロイドやタクロリムスなどの抗炎症外用薬によって皮膚炎を鎮静化することが最も重要ですが,抗ヒスタミン薬の内服はその補助療法として勧められます。

(3)シクロスポリン

重症成人アトピー性皮膚炎患者に対する使用が承認されています。使用中は腎障害や高血圧,感染症などの注意が必要です。

(4)ステロイド内服薬

長期間のステロイド内服には種々の重篤な全身性副作用があることから,ステロイド内服薬によってアトピー性皮膚炎を長期間コントロールする治療法は一般的に推奨されず,投与するとしても短期間にとどめるべきとされています。

(5)漢方療法

悪化因子の検索と対策

(1)食物

アトピー性皮膚炎患者,特に乳児では,食物アレルゲンの関与が認められることがあります。しかし不適切な除去食による成長・発育障害という栄養学的な問題があり,除去食療法は,開始前に食物アレルギー関与の評価などの治療の適応を十分考慮したうえで,医師の指導の下に施行されるべき治療法です。適切な強さと量のステロイド外用薬を使用する外用療法を行った上で皮膚症状の改善がみられない場合に,皮疹の悪化の原因となる食物アレルゲンを同定すべきです。

(2)環境抗原と接触抗原

乳児期以降のアトピー性皮膚炎患者では,ダニや室内塵,花粉,ペットの毛などの環境アレルゲンによって悪化することがあります。

外用薬,化粧品,香料,金属,シャンプーやリンス などに対する接触アレルギーで皮疹が悪化することもあります。

唾液(特に乳児),汗,髪の毛の接触,衣類との摩擦,搔破などの日常生活での非特異的な刺激でもアトピー性皮膚炎が悪化することがあります。

唾液や汗は洗い流すか,濡れた柔らかいガーゼなどで拭き取るようにします。かゆみ過敏となった皮膚では,毛糸素材やごわごわした素材などの衣類の刺激や,髪の毛の先端部の接触などでもかゆみを生じるため,そのような刺激のない衣類の選択や,髪の毛を短く切る,髪の毛を束ねる,などの工夫が必要です。また,搔いても皮膚に傷がつかないように,爪は短く切り,必要であれば就寝時に長袖・長ズボン・手袋を着用し,直接皮膚を搔けないようにすることも時に有効です。

(3)汗

アトピー性皮膚炎では発汗機能に異常を認め,時間あたりの発汗量が少なくなっています。よって発汗機能の回復も治療到達目標の一つとなりえます。

「かいた後の汗」は痒みを誘起することがあるので、かいた後の汗はそのまま放置せず,洗い流す等の対策を行う事が推奨されます。

心身医学的側面

  1. ストレスによるADの悪化、持続
  2. 慢性に経過する瘙痒の強い皮膚症状のために,二次的に心理的苦痛や社会的機能の障害が生じます。
  3. 心理社会的要因によって自己で行う治療が不良となり適切な治療や管理が妨げられ,治療や経過に悪影響を与えます。

良好な医師・患者関係を確立したうえで,従来の治療を見直し,まず十分な皮膚科的治療を指導,実施します。そのうえで,必要に応じて専門家と協力して心身医学的治療を計画します。


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